【GOG#10】 具現化の門と銀河女王の美学

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カート落ちの絶望に打ちひしがれる一輝。なぜ彼の切実な「祈り」は届かなかったのか――?
真相を確かめるべく、大魔導士の弟子ピュアルは下町の絶品「天然物鯛焼き」を手に、銀河の妖精シェリル・ノームの元へと突撃する。
そこで突きつけられたのは、他力本願な神頼みを一蹴する冷徹で圧倒的な「真の祈り」と「勝者の美学」だった。
覚醒する一輝、そしてその裏で明かされる女王の致命的な秘密とは……!?

1. 夢幻のバックステージと、高級一丁焼きの差し入れ

ピュアルは書斎の隅にある、どんな次元や位相の空間へも自在に通じる真鍮製のドア――「位相接続扉(ゲート・オブ・エフェメラ)」のノブに手をかけた。

ガチャリ、と乾いた音が響き、扉を開けたその向こう――魔術的位相の狭間に広がる絢爛豪華で退廃的なバックステージへ足を踏み入れる。

その片隅でピュアルは冷や汗を流しながら、今手に入れたばかりの「天然物鯛焼き」の包みを開けていた。

目の前にはドレスの裾を揺らす銀河の妖精――シェリル・ノーム。
彼女は流し目でチラリと紙袋を一瞥すると、ほんのわずかに鼻腔をくすぐる香ばしい焼き上がりの匂いに、瞳の奥をかすかに揺らした。

「……いい度胸ね。皮の香ばしさからして、柳家の一丁焼きでしょう。下町の逸品を目の前でチラつかせれば、私の機嫌を取れるとでも思っているの?」

「うぐっ……! 一目で、しかも匂いだけで見抜くなんて、さすがシェリルさん……!」

シェリルはフッと鼻を鳴らし、艶やかな紅い唇を歪めた。

「当然でしょ? 私の五感をナメないことね。……で? その焼きたての絶品を持って私に何を言いに来たわけ? だいたい察しはつくけれど」

「じゃあ話が早い! ちょ、ちょっと待ってよ! あれだけ一輝クンが必死に名前を叫んで『購入完了』の奇跡を祈り倒したのに、なんでカート落ちして買えなかったのさ! 女王様ならその辺の回線制限くらい圧倒的な歌声でぶち抜いてくれると思ったのに!」

2. 「物乞いの祈り」を全否定する女王の論理

シェリルはふっと鼻で笑うと、さらに冷ややかに、しかし底知れぬ気高さをたたえてピュアルを見据えた。

「はぁ? あんた今なんて言った? 『祈った』? ちゃんちゃらおかしいわね。聞いてて耳が腐りそうだわ」

「なっ……! なにさ、それのどこがダメなんだよ! 一輝クンだって再販の神キットを前にして必死だったんだからさ!」

「何が悪かったかもわからないわけ? 予備校の自習室の隅っこで、血走った目でリロード連打しながら『どうか繋がってくれ!』なんて、拾ってもらうのを待つ野良犬みたいに震えてたじゃない。そんなの、美しさのかけらもないわ」

「た、待望の再販なんだからそれくらい必死になるのが普通じゃん……!」

シェリルはコツコツとヒールを鳴らしてピュアルに歩み寄ると、冷徹で美しい青い瞳で射抜いた。

「言い訳すんじゃないわよ! サンダルフォンだの私の名前だの、自分の無力さと日々のサボり目を棚に上げて、都合の良いときだけ神仏にすがる……そんなの、魔術でも何でもない、ただの『みみっちい物乞いの懇願』よ!」

真の「祈り」とは宣戦布告である

「物乞いの……懇願?」

「そうよ。自分の足で立つ覚悟を最初から放棄して、泥臭い努力の積み上げもなしに『奇跡を起こしてくれ』と天に丸投げする。そんな他力本願な祈りが届くわけないでしょ。この私だってね、そんなゲスなすがりつきは虫酸が走るほど嫌いなのよ!」

シェリルの声が、魔術的位相の狭間に鈴を転がすように、しかし絶対的な重みを持って響き渡る。

「勘違いしないで。『祈り』っていうのはね、神様に泣きついて恵んでもらうためのものじゃないのよ。自分がこれまで血を吐く思いで積み上げてきた誇りと実力を、ここ一番の現実世界に叩きつけるための『宣戦布告』であり、絶対に未来をこじ開けるという己の意志の具現化なの!」

「自分の歌声で、自分の美学で、この銀河のすべてをねじ伏せてみせる――その圧倒的な覚悟の着地点にだけ、本当の『門』は開くのよ。それが私のやってきたことだし、私が歌う理由だわ」

「うぅ……。じゃあ、一輝クンの祈りは……」

「当たり前でしょ! 自分のエゴの尻尾を引っこ抜いて『どうか恵んでください』ってゴミ溜めに投げ出したような真似で『具現化』なんて永久に手に入るわけないわ。サーバーエラーで弾かれたのは当然よ。システムがアイツの恥ずかしい雑音を、私の耳に入らないようにシャットアウトしてくれたことに感謝しなさい!」

3. 次のステージへ向かうための条件

シェリルはピュアルが差し出した鯛焼きを、ふふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべながら細い指先でつまみ、上品に一口かじった。パリッと香ばしい音が響き、ほんの一瞬だけ目を細める。

「……っ。ま、皮のパリパリ感とあんこの甘さは……悪くないわね。せいぜい合格点ってところよ」

ふっと息をつくように呟くと、シェリルは優雅に背を向け、ピンクの長髪を揺らしながら歩き出した。その背中には、絶対的な勝者のオーラが満ち満ちている。

「どうしてもその北西の門を開けて現実を書き換えたいなら……次に私を呼ぶときは『この銀河すべてを自分の歌で満たしてやる』――私くらいの、傲慢なまでの絶対的な覚悟とプライドを背負ってから出直してきなさい。今日みたいな情けない『祈り』なんて二度と口にするんじゃないわよ!」

シェリルは肩越しに振り返り、一切の妥協のない、眩いまでの凛とした笑みを浮かべた。

「せいぜい次のチャンスまでに、その縮こまった器を大きくすることね。じゃあね、見習いクン?」

彼女のウインクと同時に、華やかなステージの幻影がパッと消え去り、ピュアルの意識は一瞬で元の魔導士の書斎、観測水晶の前へと引き戻された。

「あーあ、コテンパンに言われちゃったな。でもこのままじゃ一輝クン、『運が悪かった』って迷子のままだし……よしっ、ほんのちょっぴりヒントを落としてあげよっと!」

ピュアルはイタズラっぽく微笑むと、指先を軽く動かした。極めて微細な魔力の風が吹く。
パタパタとノートのページがめくられ、あの夜に書き殴った「北西スロットの定義」のページでピタリと止まった。

――【北西:サンダルフォン×シェリル・ノーム(祈りの具現化・リザルト)】

その文字が、一輝の目の前に強制的に突きつけられた。

一輝の気づきと絶対的な覚悟

「ん……? ノートが勝手に……って、おい」

一輝は顔を上げ、提示されたページを凝視する。そこに書かれているのは、さっきまで悩んでいた北西の項目だ。

「サンダルフォン……祈りの具現化……。そしてシェリル・ノーム。俺はさっき、この名前にすがって『どうか買わせてくれ』って祈ってた。あ……待てよ?」

一輝の脳内で、パズルのピースがカチリと音を立てて噛み合い始める。

「シェリルが『どうか私を選んでください』なんて媚びを売るような女か……? ありえない! あいつはいつだって『私の歌を聴け!』と銀河を支配するような、圧倒的なプライドの塊だったはずだ……!」

一輝の目がスッと鋭い光を帯びる。

「そうか……! 間違ってたのは俺のスタンスだ! サンダルフォンもシェリルも、弱者の願いを叶える便利ボタンなんかじゃないんだ…。泥臭く積み上げた誇りと、それを元に『絶対に勝ちを掴む』という圧倒的な勝者の意志の着地点にしか、あの門は開かないんだ……!」

「……おもしれぇ。回線エラーごときにプライドまでへし折られてたまるか。次にシェリルを召喚するときは、乞食みたいな祈りじゃなく、日々積み上げた自信と『絶対的な勝者の美学』で、この手で確実にねじ伏せてやるぜ……!」

一輝は力強くこぶしを握りしめ、ノートの端に書いていた『敗因:不明』の文字を、真っ赤なインクで激しく塗り潰した。

観測水晶から覗いていたピュアルは満足そうに微笑んだ。

「ま、これくらい自分で気づけなきゃね! さてさて、この調子でどんどん現実をハックしていきなよ、一輝クン!」

4. 観測者のうっかりと、命がけの目撃

――だが、その直後。ピュアルは自分の手元を見て、ハッと息を呑んだ。

「って、あれ……? そういえばボク、あの緊張感の中でうっかり自分の分の柳家の一丁焼きまでシェリルさんに置いてきちゃった! てへ!失敗しっぱい♪」

ピュアルは書斎の隅にある「位相接続扉」を再び無邪気にガチャリと開く。

「シェリルさーん!ボク、自分の鯛焼き忘れてた~!って、あ……!!!!」

そこに広がっていたのは――
目撃してしまったピュアルの視線と、両手に鯛焼きを持ち、ゴクンと喉を鳴らした絶対女王の視線が、完璧にバチコンと交差する。

「………………………………は?」

ピュアルの背筋を、恐怖を通り越した絶対零度の戦慄が鋭く駆け抜ける。

「あ……。シェ、シェリルさん?今のはその、うわ、わ、わわわわ……」

「…………3秒以内に消えなさい!! それとも、跡形もなく消し炭にして宇宙の塵にしてほしいの…?」

「ひぃぃぃぃぃぃっ、ごっ、ごめんなさーーいっっ!!」

バタンッ!!! と凄まじい勢いで扉が閉まり、書斎の床に盛大にひっくり返った。
心臓をバクバクと激しく鳴らしながら、ピュアルは青い顔でガタガタと震えていた。

「……わ、忘れないと!…うっかり喋りでもしたら………!」

最強の生存魔法陣の本質に一歩近づいた少年と、世界の真実(とシェリルの致命的な秘密)を命がけで知ってしまった観測者――。
それぞれの夜は、こうして静かに、しかし激しく更けていくのだった。

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