――待望のガンプラ再販争奪戦!それは一人の浪人生にとって、脳内BGMと八大天使魔法陣を駆使して挑む厳粛なる「デジタル戦場」だ。精神の全帯域を賭けた決済ボタンの一撃、そして訪れるあまりにも冷酷なエラー画面…敗北の余韻と精神の崩壊の中で、一輝は己の「祈り」の過ちと魔法陣の罠に迫っていく。これは、過酷な現実と妄想の狭間で繰り広げられる、切なくも壮絶な敗北と覚醒の記録である。
1. 予備校の自習室におけるデジタル戦場
月曜昼下がり、予備校の自習室。周囲が単語帳をめくる音の中、一輝は冷や汗を流しながらスマホを凝視していた。
画面の先では、本日14時解禁の待望の再販ガンプラ『HGUC サイコ・ガンダムMk-II』のカート画面がクルクルと回り続けている。
「くそっ、繋がれ……! 俺が展開する八大天使魔法陣(オクタグラム)の北西、サンダルフォン(具現化)の加護があれば、このデジタル戦場を制圧して『購入完了』という戦利品を掴み取れるはずだ……!」
一輝の脳内では、銀河の妖精シェリル・ノームが放つ『Northern Cross』の圧倒的な生体フォールド波が、精神の全帯域を焼き焦がすように鳴り響いていた。
「我が意志は天に届く! 決済ボタンを押してくれっ!サンダルフォーン!」と心で叫び、震える指で画面を更新した、画面が切り替わる「——きききキタッ! カート入った! あとはぱぱpパスワード入力……!」
勝利の快感が走る。女王の意志が、今まさに物理次元のプラスチックとして具現化しようとしているのだ。
焦る指先でパスワードを叩き込み、「注文を確定する」の赤ボタンを力強く押し込んだ!
——だが。
画面に現れたのは、祝福ではなく冷酷な赤文字だった。
【エラー:予定数量に達したため、カート内の商品は削除されました。】
「…………は?」
血の気が一気に引く。
幻の再販キットは蜃気楼のように消え、「在庫なし」の文字が冷たく嗤っている。 「嘘だろ……? 俺のサンダルフォンが……シェリルの歌声が……アクセスエラーごときに敗北した、だと……!?」
その瞬間、耳鳴りのような耳障りな電子音とともに、脳内で響き渡っていた『Northern Cross』の鮮烈な歌声が脳内で共鳴していた『Northern Cross』の鮮烈な歌声が――プツリと、フォールド断層の彼方へかき消されるように、次元の裂け目から引き剥がされるが如く途絶えた。
途絶えた歌声と侵食するトラウマ
完全な静寂…
歌の残響が消え、痺れる脳の空白を埋めるように――ひそやかに、しかし逃れられない重力を持って、その声が染み出してきた。
「……見つけた……」
「うそ……うそよ、お兄ちゃん……。私を置いてかないって……あんなに優しくしてくれたのに……!」
(違うんだ! 俺が欲しかったのはお前じゃなくてサイコガンダムのプラモだ! クソッ、バンダイが…転売ヤーが俺を弾いたんだ……!)
「私を置いて、ほかのとこに行くの……? 私じゃ……私のサイコ・ガンダムじゃダメなの……!?」
(違うんだ!やめろっ! ロザミアーっ!)
「いや……いやああああっ! 捨てないで……! お願い、私を見捨てないでよおぉ――っ!!お兄ちゃーーーーんっ!!!!」
――――ビシュゥゥーーーンッ!!(リフレクター・ビット&メガ・ビーム砲の照射音)
うわぁぁぁっ!……ハッと気づくと、無機質な蛍光灯に映し出された自習室の現実が冷たく押し包んでいた。
焦げ付くような気持ちをこらえ、一輝は荒い息を整えながら、ガクガクと震える手でノートを引き寄せる。
2. 敗北の分析:サンダルフォンと魔法陣の罠
現実に引き戻された一輝は「在庫なし」の画面を睨みつけながら、悔しさに身をよじる。
なぜだ。脳内に降臨した女王の意志で「具現化」を掴み取るはずが、なぜ回線ごときに弾かれたのか。
顔を上げた一輝はノートを開き、赤ペンで八大天使魔法陣の【北西:サンダルフォン×シェリル・ノーム】を丸で囲み、敗因の分析を始めた。
「サンダルフォンは『祈りの具現化』を司る天使。シェリルも奇跡を起こす最強の属性だ。なのに、なぜエラーで弾かれた……?」
指先で頭を軽く叩きながら、血走った目でノートを睨む。 「祈りが足りなかったのか? 気合か? BGMを『射手座☆午後九時Don’t be late』にするべきだったか……って、セットリストの問題かよwww、じゃあ日頃の行いか……? いやいや、そんな精神論なわけねぇ!」
ぐるぐると言い訳が駆け巡る見当違いな自問自答。
「徳が足りない」「運が悪かった」――そんな凡百の言葉をノートの端に『敗因:不明(運?)』と情けなく書き殴りながらも、一輝の胸のうちはどこか晴れなかった。
(……本当にただの「運」だったのか? あんなに必死に、縋るように祈ったのに……まるで、俺の願いそのものが、最初から天界に見向きもされていなかったような……この釈然としない感覚はなんだ……?)
失敗の本当の意味すら理解できぬまま、彼のオクタグラムは、圧倒的な無力感とともにフリーズするのだった。
思考放棄と忍び寄る異変
「……はあ、もういいや。どうせ運がなかったんだよ、運が……っていうか、買えないのがデフォだろ。」
脳のキャパシティを超えた思考をあっさり放棄し、一輝は現実逃避するように英単語の参考書へと視線を落とした。いつもの浪人生モード、平穏で退屈な日常のルーティンへと、彼の意識はスルスルと引き戻されていく。
――その瞬間だった。
自習室の冷えた空気のなかで、一輝はふと、背筋が泡立つような圧倒的な誇りと美の気配を肌で感じ、思わずペンを止めた。
(……なんだ今の……まるで誰かに見透かされて、冷徹に値踏みされたような……)
だが、すぐに「気のせいか」と首を振って、彼は明日の模試の範囲をめくり始める。
ざわつく胸の鼓動と言い知れぬ気まずさを、いつもの日常の諦めへと無理やり押し込めながら、一輝は答えのない混乱へと沈んでいくのだった。


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